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無法島の一件 4 覚醒

last update Last Updated: 2025-07-05 11:59:54

 アレックスは完全に体を預けてきて、私の肩に頭を乗せ、抱きついている。私はそれを支えながら歩く。

 歓楽街をふらふらと歩く私たちは、退廃的でダメな恋人同士みたいだわね。

「アレックス、大丈夫?」

「あー、酔った」

 なんだか滑稽だわ。すっかり無人島に馴染んでいるんじゃない? 気分も良くなってきた。

 アレックスが私にしがみついてくるなんて、ほとんどないし。私がブランケットの代わりだとか言ったことはあったっけ……。

「なんだか恋人同士みたいよね……アレックス?」

 返事がない。お酒、そんなに強くなかったんだ。今度アパートで飲ませちゃおうかなぁ、なんてこと考えちゃった。そうしたら朝まで……あぁ……。

 なんだか私も結構酔っているかも。雰囲気に飲み込まれているのかしら? 珍しいな。

 なんか、目の前が……頭がぼんやり……。

******

どこ?

 はっ!?

 気がつくと、私は知らない場所で目を覚ました。

 ここどこ? 私、寝てたんだ。

 真っ暗な小さい部屋。最初は無法島に来たことさえ忘れて、自分のアパートと勘違いしてしまった。ちょうど寝室と同じくらいの広さだったから。頭は少し痛かったが、意識ははっきりしている。

 あー、よく寝た。

 いや……そんなこと言ってる場合じゃないわ。

 目の前の扉から出ると、長い廊下の端の部屋にいることがわかった。

 古くさびれた宿。不釣り合いな赤い絨毯……なんだか不気味。

 部屋には小さなシャワーがあるだけ。掃除もおざなりで埃がたまっている。ここは仮眠室? って、そんなことはどうでもいい。

 アレックスは? アレックスがいない。

 良くないことが起きていると思った。窓から外を見ると、月が西側に傾いている。

 そんなバカな……真夜中をとっくに過ぎているってこと?

 思い出した。随分長く食堂で飲んで食べて……。

 甘いたれの手羽先やスペアリブはすごくおいしかった。料理長がみんなにお酒を奢ってくれたの。怖い思いさせたお詫びにと。みんな大喜び。客のみんなと雑談もしつつ、お酒を飲んだ。怒鳴ってた男の人さえ上機嫌だった。

 途中からアレックスが気分が悪くなって、外に出たいって……私もなんだかくらくらして……まだ夕方だったはず。

 あの様子だと、アレックスはほとんど歩けないし、そもそも移動する手段もないわ。

 舞台は? サービスするとか料理長がみん
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